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"痩せっぽちなその男の子は、プロデューサーが「サックス・ソロをやってくださる菊地さんだ」と僕を紹介するや否や、「初めまして!有り難うございます。うわあ、楽しみだなあ。僕、ついこのまえまでサラリーマンだった..."

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痩せっぽちなその男の子は、プロデューサーが「サックス・ソロをやってくださる菊地さんだ」と僕を紹介するや否や、「初めまして!有り難うございます。うわあ、楽しみだなあ。僕、ついこのまえまでサラリーマンだったんですよ!プロの方にレコーディングセッションに来て頂くなんてすごいなあ。よろしくおねがいします!」と、丁寧にお辞儀をしながらニコニコしていた、それはまだ音楽家の笑顔というよりも、幾分営業マンの笑顔に近く、僕は、彼の自己申告にウソが無い事を察した。バックトラックは危なっかしい感じだった、僕は、この真面目な子が、来年にはまたサラリーマンに戻っているだろうことを、そして今夜が、彼の人生の中で、ほんの一瞬のサマーオヴラブになり、家庭を持ってからも時折思い出す様になることを祈った。

 

 しかし、ヴォーカルが始まってからは驚愕の連続だった。一音一音、そして歌詞の一言一言が凄まじい強さと、鈍い光を放っていた。新鮮で胸に突き刺さる、自嘲的な歌詞。国産のメンソール煙草の様に青々しくもハスキーな声、それに反して図太そうな歌唱法。さっきまでのサラリーマン上がり君とは、まったくの別人だった。

 

 相手が男性だった事もあり、気持ちはすぐに言葉になった。僕は「これは凄く良いですよ。売れますよお。いやあ素晴らしい。曲も歌詞も書くんですか?そうですか、お名前は何と仰るのですか?」と聴いた。彼は「有り難うございます!僕、あ、そうだ!サラリーマン時代の名刺なんか出しちゃおうかなあ。あはははははは!」と言いながら、<株式会社○○ ××課 菅 止戈男 (すが しかお)>と書いてある名刺を出した。



- 粋な夜電波シーズン2前口上一覧/リングス再臨 - naruyoshi kikuchi INTERNET TROISIEME (via mcsgsym)

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