南北戦争が終わってから1867年までに南北カロライナ両州で、KKKは、黒人や、それを擁護する白人に対して598件の襲撃事件を起こし、197人を殺した(これは少ない方で、ジョージア州のKKKによる死傷者は1000人以上、ルイジアナ州では2000人近い)。68年に判事になったトゥアジーは6年間、KKKの犯罪を厳しく裁き続けた。度重なる脅迫(きょうはく)に屈せずに戦った。彼はその経験を自嘲的(じちょうてき)に『愚か者の任務(A Fool’s Errand)』(1879年)という小説に書いた。これと続編『見えざる帝国』は、南北戦争直後のKKKの貴重な記録であり、グリフィスも、『見えざる帝国』からいくつかのシーンを『國民の創生』に引用している。
ただし、グリフィスはなんと黒白ひっくり返して使っているのだ。
トゥアジーの『見えざる帝国』には、投票に行こうとする黒人たちをKKKがリンチして殺す場面が緻密(ちみつ)に描写されている。グリフィスはこれを裏返して、投票を拒(こば)む黒人を黒人たちがリンチするシーンに作り替えた。また、『見えざる帝国』には、ひとりの屈強な黒人の鍛冶(かじ)職人が、集団で襲いかかった白人の暴徒を素手で返り討ちにするが、背後から銃で撃たれてしまうという場面がある。これも『國民の創生』では黒人と白人を入れ替えて使われている。
しかも『國民の創生』ではベンがKKKを結成するとすぐに黒人に銃撃されてメンバーが二人死ぬ。念を押すように「先に撃ったのは黒人のほうだった」と字幕が出る。これは完全に捏造(ねつぞう)だ。その時点ではKKKはまだ何もしてないから殺す理由がないし、実際、黒人がKKKを撃った記録はどこにもない。つまりグリフィスは、KKKの犯罪行為の記録を黒人の犯罪へと意図的に歪曲(わいきょく)した「確信犯」なのだ。
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